panda life

白も黒もどちらも私。20代専業主婦の育児、生活、漫画と本の話。

変わらない夏

目玉焼きの白い膜を箸でつつくと、オレンジ色の黄身が流れる。醤油かソースか、シンプルに塩コショウか。

ソースを選んで黄身に絡めて、白身の両端を箸で挟んで、ごはんの上に1度のせてからガブッと一口。
白いごはんにこぼれるオレンジ。

卵かけごはんは苦手な私だけれど、限りなく半熟に近い目玉焼きのおこぼれは好き。


透き通ったまんまるのオレンジが、真っ青だったはずの空に溶けて、少しずつ、でもあっという間に、海にこぼれていく様は、朝ごはんの目玉焼きと同じだ。

涼しい風が吹き抜ける家のなか、夏はいつも、かすかに煙の匂いがする。何年経っても変わらない、澄んだ冷たい空気を、小麦色に焼いた肌で受け止める。

祭りの季節なのに、閑散としたままの寺社は、街に子どもがいない証拠なのだと父は言う。

感じている風の温度と匂いは、昔とまったく変わらないのに、昔あったものは、もうここにはない。

お茶屋さんのお茶には到底敵わないけれど、しっかり蒼くて熱い、おばあちゃんが淹れてくれる緑茶。夏なのに、飲みたくて、飲みたくて。昔も今も変わらない、心を鎮める飲み心地。


嬉しい、楽しい、単純で率直な喜びの言葉が、何よりも重くて尊くて、こんなに幸せを噛み締めるのは初めてだ。


そういえば、ちょうど10年前の夏、高校の同級生と、しかも全然仲良くなかったはずの男女混合メンバーで、どういうわけか集まって花火をした。

あのとき、私の顔を見ただけで、本当に楽しい大学生活を送っているのがわかると言った人がいる。そんなに楽しいの?何がそんなに?随分と羨ましがられた。

あの頃の私は、出会う人すべてが大好きで、毎日その大好きな誰かと話せることが嬉しくて仕方がなくて、そんなリア充っぷりを語るのも愉快で、調子に乗っていたのだと思う。

大学に入りたい一心で、勉強以外に興味がなくて、体育の時間に孤立しなければ何でもいいし、むしろひとりで過ごしたいと思っていた暗い人間だった私。1度も口を聞いたことがないクラスメイトもたくさんいたし、特に男子はひとりふたりくらいしか話したことがなかった。

その数少ないひとりが彼だった。別にイケメンだと思ったこともないし、ましてや恋愛感情なんて微塵もなかったのだけれど、もっと話しておきたかったなぁと思っている。もう会うことはないだろうけど、もし、ここで、もう1度会えたら、素直に話しかけてみたい。


生まれ育った土地の、変わらない夏が、私はずっとずっと好きだ。


Cutie Panther

Cutie Panther